DATE 2008. 8.21 NO .



 エブラーナの洞窟の様子を見に来て、一夜明け。
 たまたま早く目が覚めたリディアの目に、子供達と一緒に何かやっているエッジの姿が映る。

「若様、早く早く!」

「せかすなよ、これ結構扱いが難しいんだからな」

 目をきらきら輝かせながらせっつく子供達を宥めつつ、エッジの双眸はじっと手元のものを見て離れる事はない。
 声を掛けるのも忘れて、リディアもただただ、その作業に見入っていた。何をしているのか全くわからないながら、話し掛けて遮るのは、とても悪い事のように思えた。
 やがて、エッジが手元から視線を外し。

「……出来たぜ」

 子供達の歓声があがった。

「ほら、よーく見とけよー…」

 エッジの手から、小さく小さく火が奔る。火はもう片方の手に持っていた「何か」に触れて焦がし、すぐに消えた。
 そして、次の瞬間――

「わぁっ…!」

 さっきとはまた違う、子供達の声。
 エッジが持っていた「何か」から、細く光が溢れていた。ちろちろと、子供の吐息にも揺れそうな弱々しい、けれど何故か目を離せない、光が。

「きれい…」

 思わずリディアはそう呟く。

「もっとこっちに来いよ、リディア」

 エッジが光の方を見たまま言った。

「そんな遠いとこから見てても、つまんねぇだろ?」

 顔までは見えないものの、いつもからかってくる時のような表情が簡単に想像出来る声音だ。

「…忍ってすごいんだねー」

 気づいてたんなら早く呼んでくれればいいのに、と思いながら、リディアは子供達の輪に歩み寄る。

「――これ、何だと思う?」

 近づいてようやくかすかな音をたてている事がわかる、儚い光。
 まだそれから目を離さないまま、エッジが聞いてきた。

「わかんないよ。でも…これ…」

「よーく考えてみろ。お前たぶん知ってるはずだから、さ」

 リディアの記憶に、これとよく似たにおいがあった。

「あ……火薬、なの?」

「そ、ダムシアンを空爆したり、エブラーナを攻めるのに使う、あの火薬」

 空爆直後のダムシアン城に満ちていたあのにおいは、幼かったものの、まだしっかりと覚えている。崩れた瓦礫、漂う粉塵、熾火、犠牲者達……同じ状況に陥ったミストと違ったのが、それだ。

「まぁ、バブイルの塔への抜け道を掘るのに使ったりもするな。…発破作業なしだったら、一体いつまでかかってた事やら」

「だから若様が悪いやつをやっつけられたんだよね!」

「…そうだな」

 そう言った子供の頭を空いた手でなでてやりながら、エッジが呟く。

「これは…本当にきれいだね。火薬なんて、嘘みたい」

「――道具は使い方次第。うまい事使ってやりゃぁ、人殺しに使えるもんでも、こんな風に子供を喜ばしてやる事だって出来んだよ」

「……うん」






「――俺が即位する時には、もっとでっかいのを見せてやるよ。軍備の分まで使い切るくらいの量で、思いっきり派手な式典にして、な」

「エッジらしいね」

「そりゃどうも。…そん時はさ、特等席で見せてやるから、楽しみにしとけよな」

「期待しないで待ってるね」

「手厳しいなぁ、おい……ま、何でもいいからとにかく待ってろよ」

「はいはい」







≪あとがき≫
 web拍手御礼SS第3弾。夏担当です。でも別に日本でいう夏っぽいのが題材なだけで、季節感の欠片もありません…!



 遠いところからどーん、どーん――響いてくる、音。
 未来に、目を向ける。